和波孝禧のイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲録音
◎イザイ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第１〜６番 和波孝禧（ヴァイオリン）<1971.2.23-24&7.12&8.26> DENON COCQ-84493 「コロムビア・ヴィンテージ・コレクション」シリーズの７点目は，和波孝 禧のイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲録音です。 和波孝禧は今や日本を代表するヴァイオリニストとして活躍しているところ ですが，１９６２年の日本音楽コンクールで優勝，１９６５年のロン＝ティボ ー国際コンクールで４位，１９７０年のカール・フレッシュ国際ヴァイオリン・ コンクールで第２位入賞しており，この録音はこれらから間もない１９７１年 に杉並公会堂で行われたものです。 この録音はイザイの無伴奏ソナタの初の全曲録音だったようで，この録音当 時，ベルギーのウジェーヌ・イザイ協会から感謝のメッセージが寄せられてお り，解説書にそのメッセージが和訳とともに掲載されています。ちなみに，和 波孝禧は１９９７年にこの作品の２度目の全曲録音を行っています。 さっそく聴いてみると，十全なテクニックで克明かつ念入りな演奏を行って おり，ダイナミクスの幅や表現の切れ味はいまひとつと思える面があるとして も，誠実に作品にアプローチしつつ各作品の姿を適切に描き出しています。 さらにここでは，和波孝禧の情念の込められた求心力のある表現に引き込ま れる一方で，演奏が小さくまとまっているというか，限られた枠の中に収まっ てしまっており，聴いていて密室的というか，やや息苦しさをを感じてしまっ たのも事実で，もう少し開放的な演奏が聴ければさらによかったのではないか と思います。 音質については，演奏の姿を的確に捉えており，耳当たりも比較的良好では あるのですが，音像が大きく，定位感や音場感はあまり感じられませんし，音 色の再現もやや大味で，この録音のせいで演奏が窮屈に聴こえてしまっている 面があるのかもしれません。 現在では，この作品の全曲録音も数多くリリースされており，個性的な名演 にも事欠かないところですが，そんな中にあってこの録音は若き和波孝禧がイ ザイの無伴奏ソナタ全曲に果敢に挑んで傾聴すべき演奏を聴かせている，今な お輝きを失わない充実の１枚として一聴の価値があると思います。
2008.8.13
