ダニエル・デ・ニースのデビュー録音のヘンデルのアリア集
◎ヘンデル 歌劇「エジプトのジュリオ・チェーザレ」〜嵐の海で難破した小舟は 歌劇「リナルド」〜私を泣くがままにさせて 歌劇「アルチーナ」〜前のように私を見つめて 歌劇「テセオ」〜甘い休息と，純真な平和 歌劇「テセオ」〜容赦のない嫉妬を目覚めさせよ カンタータ「アポロとダフネ」〜この魂の最高の喜び 歌劇「アリオダンテ」〜私のひどい苦悩 歌劇「リナルド」〜私は戦いを望む 歌劇「ゴールのアマディージ」〜ああ、無慈悲な人！ オラトリオ「セメレ」〜私は私をあがめます 歌劇「エジプトのジュリオ・チェーザレ」〜辛い運命に涙は溢れ オラトリオ「セメレ」〜極みなき喜び ダニエル・デ・ニース（ソプラノ）， ウィリアム・クリスティ指揮，レザール・フロリサン 英DECCA 475 8746 これはダニエル・デ・ニース（Danielle de Niese, 1980-）のデビューＣＤ です。デ・ニースはスリランカとオランダの血筋でオーストラリアに生まれ， 国内で多くのコンクールに入賞した後，ロスアンジェルスに移り，１５歳でロ スアンジェルス歌劇場でプロデビュー。１９歳でメトロポリタン歌劇場のヤン グ・アーチスト・プログラムのメンバーとなり，「フィガロの結婚」のバルバ リーナ役でメト・デビューしています。 これまでバロックからモーツァルトあたりまでを主なレパートリーとしてお り，特に２００５年のグラインドボーン音楽祭でのヘンデルの「エジプトのジュ リオ・チェーザレ」のクレオパトラ役が大評判となり，ＤＶＤ化もされていま す。最近では「フィガロの結婚」のスザンナや「コジ・ファン・トゥッテ」の デスピーナを歌っているということです。 さっそく聴いてみると，冒頭からからデ・ニースの若々しく張りがあって力 強いコロラトゥーラの魅力に一瞬にして惹き付けられてしまいました。技術的 にも全く安定していますし，メロディアスところでは透き通ったような声色で 美しく切々と歌い上げており，その歌の魅力にただただ聴き惚れるばかりでし た。 実はデ・ニースの声を聴くのは今回が初めてなのですが，その生来の声の魅 力と，声域を通じて均質な声色と，技術的な安定度と，そして何よりも自身の 歌のスタイルが確立されていて，どの作品に対しても余裕を持ってアプローチ している力量はただごとではなく，その歌の力によって心を射抜かれる思いが するほどでした。 また，クリスティ指揮のレザール・フロリサンの演奏も実に素晴らしく，フ ランス・バロックを思わせる軽やかなリッチネスともいうべき洗練されたアン サンブルが魅力的で，独自のシリアスになりすぎない表現は，ヘンデル演奏の １つの在り方だと思いますし，デ・ニースの歌を絶妙な呼吸でサポートしてい るところはとりわけ見事だと思います。 録音についても，すっきりしたナチュラル系の音質がこの演奏にマッチして いて快適ですし，デ・ニースのソプラノの声も破綻なく捉えられており，特に 不満を感じる点もなく良好な音質を楽しめるものですが，それでもＳＡＣＤで 聴けたらもっと感激したに違いないだろうと思わすにはいられませんでした。 全３６ページの解説書はオールカラーで，デ・ニースのポートレートが数多 く掲載されるなど，アートワークとしても手の込んだつくりとなっていてモノ としての魅力がありますし，同時に若きプリマドンナを売り出していこうとい う意気込みのようなものが感じられます。 そんなわけで，これはデ・ニースの聴く者を虜にせずにはおかない魅力的な 歌の数々を素晴らしいアンサンブルとともに存分に堪能することができること に加え，今後の活躍への期待がいやが上にも高まる，まさに魅惑の１枚として 強力に推薦したいと思います。
2007.10.20
