アンゲリカ・キルヒシュラーガーのヘンデルのオペラ・アリア集
◎ヘンデル 歌劇「アリオダンテ」 〜ここでは愛を 一途な思いの翼を たわむれるがいい，不実な女よ 暗く，呪わしい夜の果てに 歌劇「エジプトのジュリオ・チェーザレ」 〜心に呼び覚ませ 願わしき希望よ 蛇の怒りはおさまらない 歌劇「クレタのアリアンナ」 〜あなたは私に腹を立て ああ祖国よ，死すべきものの休息だけが 揺るぎない樫の木が たけりくるった獅子のごとく さあここで，受けて立とう アンゲリカ・キルヒシュラーガー（メゾ・ソプラノ）， ローレンス・カミングス指揮，バーゼル室内管 SONY CLASSICAL SICC 547 オペラとコンサートの両方で活躍し，今や世界で最も人気のある現役メゾ・ ソプラノの１人であるキルヒシュラーガー（Angelika Kirchschlager, 1966-） による，ヘンデルのオペラ・アリア集です。 キルヒシュラーガーはバロックから現代音楽に至る幅広いレパートリーを有 していますが，ヘンデルのオペラに関しては，ウィリアム・クリスティ指揮の 「ジュリオ・チェザーレ」のＤＶＤがありますが，ＣＤは初めてということで す。 収録されているのは「アリオダンテ」のタイトルロール，「ジュリオ・チェ ーザレ」のセスト，「クレタのアリアンナ」のテゼオとタウリーデという，い ずれも男役のものですが，キルヒシュラーガーはオクタヴィアン，ケルビーノ， オルロフスキー侯爵といった男役を歌うことも多いので違和感はありませんし， 今年の３月にはパリのシャンゼリゼ劇場で「アリオダンテ」を歌う予定なのだ そうです。 それでさっそく聴いてみると，持って回ったところのないシンプルでストレ ートな歌いぶりが作品に見事にマッチしていますし，クリヤーで美しい声色が 実に魅力的ですし，曲趣に応たドラマチックさやスケール感，あるいはリリカ ル味わいといった多彩な表現を余裕をもって描き出しており，その声の麗しさ と歌の見事さにただただ聴き惚れるばかりでした。 ローレンス・カミングス指揮のバーゼル室内管はピリオド・インストルメン ツに夜演奏ですが，スイスのアンサンブルにありがちな無味無臭のすっきり系 ではなく，ほどよい響きの厚みや音色の味わいがありますし，テンポもリズム も絶妙な，素晴らしいヘンデル演奏を聴かせてくれていると思います。 それにしても，この録音でのキルヒシュラーガーの歌の魅力とアンサンブル の見事さは傑出したもので，あまりに素晴らしいために却ってそれを表現する 言葉に困ってしまうほどなのですが，最初に聴いた瞬間からすっかり耳を奪わ れてしまいましたし，それから繰り返し聴いて至福の時を過ごしており，他の ＣＤが聴けない状態に陥ってしまいました。 また，この国内盤ＣＤでは，輸入盤同様の全ページカラーの解説書やパッケ ージのアートワークも素晴らしく，日本語解説と歌詞対訳も充実しているのも 嬉しく，この素晴らしい録音にいっそうの花を添えており，さらに価格も税込 み２５２０円というのは申し訳ないほどお買い得ではないかと思います。 そんなわけで，これはヘンデルの魅力的なアリアの数々を，キルヒシュラー ガーの作品にぴったりな声と歌いぶりを練達のアンサンブルとともにで堪能す ることのできる希に見る傑作録音として，強力に推薦したいと思います。
2007.1.27
