クナッパーツブッシュ指揮シュトゥットガルト放送響のブラームス・ライヴ
◎ブラームス 交響曲第３番 ハイドンの主題による変奏曲 クナッパーツブッシュ指揮，シュトゥットガルト放送響 <1963.11.15> 独HÄNSSLER CD 93.177 南西ドイツ放送（ＳＷＲ）の貴重な放送音源をリリースしている独ヘンスラ ーから，クナッパーツブッシュ晩年のライヴ録音が発売されました。シュトゥッ トガルトのリーダーハレでのオール・ブラームス・プログラムを収録したもの で，当日は悲劇的序曲も演奏されており録音も存在しますが，残念ながらこの ＣＤには収録されていません。 クナッパーツブッシュはブラームスの交響曲の中では第３番を指揮すること が最も多く８種類の録音がありますし，ハイドン変奏曲も３種類の録音がある のですが，当録音はそれぞれの作品の最後の録音になります。 さっそく聴いてみると，最初の交響曲第３番では，第１楽章の冒頭から非常 にゆっくりとしたテンポで悠然と開始しているのですが，フレージングは生き 生きと運ばれていますし，うねるような流れの良さもあって，クナッパーツブッ シュの描き出すゆったりとした心地良さの中で，深々としたロマンティズムを 心ゆくまで堪能させてくれています。 第２楽章においてもゆったりとしたテンポで楽章全体を静かに奏でているの ですが，弛緩することなく息の長いフレーズを有機的に描き出していますし， 何よりも私心のない澄みきった世界をつくりだしているのが印象的で，聴いて いて心洗われる思いです。 第３楽章では，弦楽器の引きずるようなフレージングと絶妙なアクセント耳 を奪われますが，徐々に深淵に沈み込んでいくようなシリアスな表情となって いき，管楽器の寂寥感のあるが胸に染み入りますし，１３５小節目のクラリネッ トとファゴットのレガートの切れ目（６分１７秒）でゲネラルパウゼが入るの が特に目立ちますが，ややタメのあるフレージングにはひとかたならぬ思い入 れを感じれらて心に響きます。 第４楽章もかなりゆっくりとしたテンポで始まりますが，メリハリのあるア クセントが特徴的で，重量感ある歩みで明瞭かつ入念に旋律を刻んでいきなが ら力感を増して叫ぶようなクライマックスを迎えた後，徐々に力を抜いて，落 ち着きを取り戻していき，澄みきった世界へ誘うかのように全曲を終えていま す。 続いて演奏されているハイドン変奏曲でも，ゆっくりとしたテンポを基調に 進んでおり，悠然と立ち上るような第１変奏，ダイナミックな押し出しを聴か せる第２変奏，澄明でリリカルに旋律を描き出している第３変奏，しっとりと した味わいの加わった第４変奏，トリッキーな諧謔味のある第５変奏，大袈裟 なアクセントがコミカルですらある第６変奏，オーソドックスでしみじみとし た味わいの第７変奏，弱音でうごめくように奏でられる第８変奏，晴れやかで リラックスした雰囲気の中で大団円を迎えるかのようなフィナーレと，巧みな 演奏設計で変化に富んだ演奏をつくりあげており，あっという間に聴き終わっ てしまいました。 こうして聴いてみると，いずれもクナッパーツブッシュ有機的でうねるよう な音楽づくりと，オケを見事に統率していく指揮者としての手腕が遺憾なく発 揮されていることに加え，晩年のクナッパーツブッシュが到達した，融通無碍 で達観した境地にあるともいうべき，自在で深遠な味わいのある演奏を現前さ せている名演ではないかと思います。 音質については，１９６３年の放送録音としてはもう少し情報量があっても いいような気もしますし，デジタルマスタリングによってノイズもほとんど聴 こえないほどカットされていて音色のニュアンスはいまひとつではあるのです が，それでも十分に明瞭で安定した音質を聴くことができ，鑑賞に支障はない と思います。また，聴感はステレオですが，これはモノーラル録音にステレオ プレゼンスを加えているようです。 そんなわけで，これは数多く録音されているブラームスの２つの作品の，掛 け値無しにユニークな説得力を持った名演であり，音質もまずは良好で，さら にはクナッパーツブッシュの数多い録音の中にあっても聴く者にひときわ深い 感銘と満足感をもたらすに違いない１枚として強力に推薦したいと思います。
2006.11.19
