ベーム指揮ウィーンフィルのシューベルト交響曲第９番のＤＶＤ
◎シューベルト 交響曲第９番 ハ長調 Ｄ９４４ ベーム指揮，ウィーンフィル <1973> DREAMLIFE DLVC 1170 (DVD) ドリームライフから，ベーム指揮のウィーンフィルによるシューベルトの交 響曲第９番の初登場となる映像が発売になりました。ムジークフェラインザー ルで聴衆のいるライヴ収録です。 さっそく視聴してみると，８０歳を目前にしたベームの指揮には衰えのよう なものは全く感じられませんし，力みはなく，軽く飛び跳ねるように身軽なタ クトさばきを見せており，ウィーンフィルからシンプルで反応の良いアンサン ブルと，すっきりした中にも絶妙な味わいを湛えた響きとを引き出した，大変 に清々しい演奏を聴かせてくれています。 この映像で観ることのできるベームの指揮姿は，さらりとしているようでい て要所要所を的確に押さえた，達意の域にあるというべき至芸を目の当たりに する思いですし，ベーム自身がこの作品に抱いているに違いない，明朗で澄み きった響きと，作為的なところのない自然な旋律の流れの世界を仄かな愉悦感 とともに描き出しており，それが聴き手にも確かな手応えをもって伝わってき ます。 このＤＶＤではベームとウィーンフィルの達意の演奏が堪能できるとはいえ， それは猥雑感のない，爽やかですっきりとした傾向の演奏であるため，個人的 にはそれがひときわ魅力的に感じられたのでしたが，もっとずしりとした聴き 応えを期待したい方からすると，あまりにさらりとしすぎていて物足りなく思 えるかもしれません。 私もこれまでベームが指揮した演奏を数多く聴いてきましたが，これほど精 彩があって，しかも力の抜けた演奏というのは聴いた憶えがありません。この 演奏においてはベームの指揮者としての音楽づくりが達意の域に達しているこ とに加え，身体的にもそれを過不足無く表現できるコンディションにあったこ とによって可能となったベームとしても一期一会的な，この時期にのみ可能で あった充実の演奏を実現できたのではないかという気がしてなりません。 なんだかくどくどと述べてしまいましたが，この映像はベームの数多い演奏 の記録の中にあっても，際立って完成度の高い達意の名演を目と耳の両方で堪 能できる，実に得難い１枚であり，ベームやウィーンフィルのファンにとどま らず，１人でも多くの愛好家に聴いて観ていただきたい充実の１枚として強力 に推薦したいと思います。
2006.7.11
