佐渡裕指揮，Ｎ響のホルスト「惑星」ライヴ
◎ホルスト 組曲「惑星」 <2005.6.27> 佐渡裕指揮，ＮＨＫ響，東京少年少女合唱隊 AVEX CLASSICS AVCL-25509 (SACD Hybrid) 今年の６月２７日に東京オペラシティ･コンサートホール｢タケミツメモリア ル」で行われた，第２１回〈東京の夏〉音楽祭２００５でのライヴ録音です。 ＳＡＣＤハイブリッド盤での発売です。 さっそく聴いてみると，整然としたアンサンブルによって，克明かつダイナ ミックに弾き進められており，安定感や余裕も感じられ，まさに作品が「見え る」ような明快な演奏を聴かせており，佐渡裕の指揮の下，Ｎ響がその高い能 力を遺憾なく発揮した，大変完成度の高い演奏ではないかと思います。 その意味では，これはプロの仕事として申し分のない，模範的な演奏であり， 非の打ち所のない演奏ということになるのでしょうが，私自身，この演奏を楽 しみ，満足することができたかというと，実は全くそうではないのです。 なぜこの演奏を聴いて楽しめないのかというと，自らの高い技量を駆使して 正確でダイナミックな演奏を行っているのはよいのですが，それが機械的に無 表情にコントロールされているような印象であり，要するにプロの奏者として 最低限の仕事はしていても，それ以上の意欲とかエモーションとかいった面が 感じられず，「天王星」だけは前向きの積極性があって聴き応えがあったもの の，それ以外は聴き手に伝わる表現内容が稀薄なのです。 これは指揮者とオケのどちらの姿勢に問題があるのかは断定し難いのですが， 少なくともこれだけ技術的な完成度の高い演奏を行っているのですから，リハ ーサル不足というのは考えにくいですし，ここで聴かれるエモーションの乏し い演奏は，凡そ佐渡裕らしくない思えるのも事実で，これは佐渡裕のイマジネ ーション不足か，あるいは指揮者として安全運転をしてしまったのか，それと も汗くさい演奏を好まない傾向のあるＮ響が，佐渡裕の渾身の指揮に醒めた反 応をしてしまったのでしょうか。 いずれにしても，私自身，聴いていて欲求不満の感は否めませんし，この演 奏は良くも悪くも，いかにもＮ響らしい演奏だなと思ってしまったのも事実で すし，指揮者とオケのどちらの姿勢に問題があったにせよ，佐渡裕がＮ響を指 揮して行った演奏の結果がこのようなものであったということは紛れもない事 実というほかありません。 なお，録音は大変に優れていて，ニュートラルな音調で演奏の姿を明瞭に捉 えており，特にＳＡＣＤレイヤの方は演奏会場で聴いているような臨場感と心 地良さをもって聴くことができ，以上の感想もＳＡＣＤで聴いてのものです。 これがＣＤレイヤの方だと，オケの質感を再現しきれず，やや単調な響きに聴 こえ，演奏そのものの姿もいまひとつ伝わりにくいかもしれません。 ちょっと生意気な感想を述べてしまいましたが，これはあくまで私個人の嗜 好や感覚に基づくものに過ぎず，これだけ水準の高いキッチリとした演奏であ れば異を唱える余地などないという見解も当然あろうと思います。いずれにせ よ，演奏に対する印象や考えは人それぞれでしょうから，これはご自身の耳で 聴いて判断されてはいかがかと思います。
2005.10.22
