ヴァント指揮，北ドイツ放送響のブルックナー５番ライヴ（ＤＶＤ）
◎ブルックナー 交響曲第５番 <1998.7.11> ヴァント指揮，北ドイツ放送響 TDK Core TDBA-0075 (DVD) ７月から１０月にかけて毎月２点づつ，計８点のＤＶＤが発売予定の，ヴァ ント指揮北ドイツ放送響のシュレスヴィヒ＝ホレシュタイン音楽祭でのライヴ 映像シリーズの初回発売分の１つです。 さっそく視聴してみると，演奏会場であるリューベックのムジーク・ウント・ コングレス・ハレは，比較的新しいホールのようで，その形は，箱形＋浅いか まぼこ型の天井といった学校の体育館を思わせるものなのですが，空間は広く， 抜けのよい爽快な響きを聴くことができます。 この演奏のときのヴァントはすでに８６歳。やや頼りない足どりで指揮台に 上り，聴衆に一礼してから振り返って指揮棒を振り落とすと，途端に生気漲る， 矍鑠たる指揮姿に変わります。 その演奏は，もちろん大変に集中度の高いものではあるのですが，厳格でも ストイックなでもなく，ヴァントの指揮も自身がスコアから感じたままを率直 に表出している感があり，同時にその指揮は正確さを欠いているというか，ア ンサンブルを整然と統率できておらず，微妙にずれている感じがしますし，ア タックもピシッと決まらずエッジがかなり円くなっている印象です。 また，テンポは意外なくらいに変化させているのですが，あまりはっきりと 指揮をしていない箇所でもしっかりとテンポが変化しているのはリハーサルで きっちり仕上げているからなのでしょうか。 とはいえ，ここでのヴァントは作品に感じ入り，虚心にムジツィーレンして いるような，融通無碍な指揮ぶりが素晴らしく，オケの方もそれに応えようと 非常に気合いの入った演奏を行っていますし，これは他流試合の演奏とは異なっ たアットホームな感覚での演奏なのではないかと思います。 また，北ドイツ放送響の演奏は，ヴァントの指揮のせいもあって，正確さ一 辺倒の演奏ではありませんし，あまり緻密な印象でもないのですが，それでも 持ち前の芳醇な響きの魅力を十二分に堪能できましたし，低弦のトレモロの美 しさは惚れ惚れとするばかりでしたし，さらには各奏者それぞれが自発性をもっ て演奏できているような自在な雰囲気が感じられます。 映像はときおりヴァントの顔面アップが見られるのがちょっと気になります が，それ以外はオーソドックスなコンサート映像だと思いますし，録音の方は もう少し金管が鮮明に聴けるとよいと思いましたが，オケの響きのソノリティ は見事に美しく捉えられています。 そんなわけで，このライヴ映像は，ヴァントと北ドイツ放送響とが相互に信 頼し，尊重し合いながら，自在で伸びやかな生き生きとした表現をつくりあげ ており，まさに練達の境地にある演奏というほかありませんし，聴いていて幸 せな名演として，強力に推薦したいと思います。
2005.8.12
