ジャンヌ・ゴーティエとルフェビュールのラヴェルのソナタ
◎ラヴェル ヴァイオリン・ソナタ ジャンヌ・ゴーティエ（ヴァイオリン）， イヴォンヌ・ルフェビュール（ピアノ） GREEN DOOR GDCL-0005 (仏Le Chant du Monde LDY 8115 からの復刻) ＳＰやＬＰからの貴重な復刻ＣＤをリリースしているグリーンドアのコレク ターズ・シリーズというマニアこだわりの復刻のシリーズでの新譜です。 ジャンヌ・ゴーティエ（Jeanne Gautier, 1898-?）は，フランスの名ヴァイ オニストであり名教師であったジュール・ブーシュリ門下で，同門にはジャニ ーヌ・アンドラード，ローラ・ボベスコ，ミシェル・オークレール，ジネット・ ヌヴー，そしてブーシュリ夫人となったドゥニーズ・ソリアーノなど，綺羅星 のような名演奏家たちが名を連ねています。 ゴーティエは１９２０〜３０年代のＳＰ時代にはかなりの録音を残していた ようですが，ほとんど復刻されていませんし，ＬＰ時代以後の録音もほとんど 見当たらず，まさに知る人ぞ知るヴァイオリニストといった印象があり，そん な中でも，今回復刻されたイヴォンヌ・ルフェビュールとのラヴェルのソナタ は，この作品の傑出した名演として珍重されているものです。 このＬＰは中古市場でも滅多に見かけない希少盤であり，それゆえ，いかに 傑出した名演と言われても実際に聴く機会もなく，霧の彼方の伝説の録音といっ た印象でしたが，今回ついにＣＤ化され，ようやく聴くことが可能となりまし た。 これは７インチのＬＰで，収録曲もラヴェルのソナタ１曲だけであり，収録 時間は全部で１６分４０秒ほどでしかありません。さすがにＣＤ１枚にこれだ けの収録時間というのは短すぎると判断したのか，ＬＰ再生のスクラッチノイ ズをカットしたバージョンも併せて収録されているのですが，それでも収録時 間は３３分半ほどでしかありません。とはいえ，個人的にも鶴首していた貴重 な録音が聴けるのですから収録時間の長短など全く問題ではありません。 それでさっそく聴いてみると，復刻に用いたＬＰのコンディションは総じて 良好で，ピアノの高域が潰れがちなことはあるとしても，スクラッチノイズも 気になるレベルではありませんし，復刻の音質自体も素晴らしく，オリジナル 録音の音の質感の良さを十二分に堪能できる音質です。 そして肝心の演奏ですが，ゴーティエのヴァイオリンの音色はスマートに洗 練され，耳にも心地良いもので，それだけでも魅力的ですし，その歌い口は冷 静かつ毅然としているようでありながら，この作品独特のメロディラインを絶 妙なセンスで生き生きと描き出しており，この作品の一筋縄ではいかない多彩 な表情を見事に描き出しています。 ピアノ演奏のイヴォンヌ・ルフェビュールも，知性とセンスの優った持ち味 を十二分に発揮しており，歯切れの良いクールなタッチで，ゴーティエのソロ と絶妙な掛け合いを聴かせていると同時に，くっきりとしたコントラストが描 き出されており，お互いの鋭敏なセンスが呼応し合った，息を呑むほどに見事 なデュオが繰り広げられています。 それにしても，これほどの名演で聴くと，この聴き慣れた作品が実は，小粋 な感覚的喜びと，翳りのあるメランコリックな感覚とラプソディックさと，洗 練された知的な清潔感とを内に秘めた，聴けども味わいの尽きることのない傑 作であることを再認識させられる思いがします。 そんなわけで，この復刻ＣＤは，入手困難なレアな録音が聴けて，肝心の演 奏も息を呑むばかりに絶妙で，さらには作品の見事さにも改めて感嘆しないで はいられない，まさに最上級の聴く喜びをもたらしてくれる１枚であり，もち ろん趣味の世界ですから個々人の好みはあるとしても，個人的には至福の名録 音として強力に推薦したいと思います。
2005.7.19
