ホーレンシュタイン指揮のミサ・ソレ，未完成ほかライヴ
◎ベートーヴェン ミサ・ソレムニス <1961.2.23> シュティヒ・ランダル（ソプラノ），ノーマ・プロクター（アルト）， リチャード・レーウィス（テノール），キム・ボルイ（バス）， ホーレンシュタイン指揮，ＢＢＣ響＆合唱団 シューベルト 交響曲第８番「未完成」 <1971.9.15> ホーレンシュタイン指揮，ＢＢＣ響 ワーグナー 「ファウスト」序曲 <1972.4.23> ホーレンシュタイン指揮，ＢＢＣノーザン響 英BBC LEGEND BBCL 4150-2 ＢＢＣレジェンドの新譜です。ＣＤ２枚に多彩な収録がされています。ホー レンシュタイン指揮のミサソレと未完成交響曲については，それぞれ複数の録 音が知られていましたが，いずれも未発売音源でしたので，今回初めて聴くこ とができるものです。「ファウスト」序曲の当録音は Intaglio や Music & Arts レーベルから発売されており，他に南西ドイツ放送響とのＶＯＸ録音が ありました。 さっそく収録順に聴いていくと，最初のミサ・ソレムニスはＢＢＣスタジオ での放送用の収録のようでモノーラル録音です。演奏の方は，感情のほとばし りや演奏の勢いに頼るようなことはなく，クリヤーで見通しの良いパースペク ティヴの中で克明に作品を描き出しており，柔らかく膨らみのある演奏とは正 反対の密度感と，硬派でやや骨っぽい響きの感触があり，透徹した視点によっ て毅然とした作品像を築き上げていて傾聴させられます。 独唱陣や合唱陣も充実した歌唱を聴かせつつも，冷静にコントロールされた， 求心的な表現の世界をつくり出しており，これは大作を指揮するときのホーレ ンシュタインの鮮やかな手腕が遺憾なく発揮されているだけでなく，無私無欲 に作品の姿を描き出すことで，作品世界の核心に迫り行こうとする稀有の名演 ではないかと思います。 続いて収録されている未完成交響曲はロイヤル・アルバート・ホールでのラ イヴ録音です。演奏の方は，ストイックな雰囲気の中にも美しいソノリティが あり，静謐さを湛えた旋律の流れとアタックの強烈さの交錯する，劇的でスト イックで悲壮感のある演奏であり，その恐ろしいまでの表現力と説得力の前に 釘付けになって聴き入ってしまいました。 最後の「ファウスト」序曲は，マンチェスターのサルフォード大学でのライ ヴ録音です。この作品の演奏頻度は高くありませんが，当初，ゲーテの「ファ ウスト」のための交響曲の第１楽章として作曲されながら，結局この楽章のみ が独立した序曲となったものです。この作品の冒頭のコントラバスとチューバ によるレチタティーヴォは，後年のニーベルングの指輪の世界を垣間見させて いて興味深いものです。 演奏の方は，統率されたアンサンブルと重厚な響きによって，大変に聴き応 えのある演奏を聴かせてくれており，ホーレンシュタインの手腕の確かさと同 時にこの作品の演奏に対する自信のほどが感じられるもので，この作品の深々 としたロマンティズムの世界に開眼させられる思いのする名演といいうるもの だと思います。 録音については，それぞれの録音時期においていずれも大変良好といえるも ので，音の破綻はありませんし，ダイナミックに演奏の姿を伝えていると思い ます。 そんなわけで，このＣＤは収録内容も多彩ですし，演奏はいずれもホーレン シュタインの指揮者としての技量と真摯な演奏姿勢と，作品の鮮やかな姿の伝 わる傾聴すべき名演揃いであり，強力に推薦したいと思います。
2004.10.10
