オーマンディ指揮のプロコフィエフ５番と「ピーターと狼」
◎プロコフィエフ 交響曲第５番 <1975.9.30> ピーターと狼 <1975.10.8&1977.11.17,19> オーマンディ指揮，フィラデルフィア管， デヴィッド・ボウイ（語り：ピーターと狼） RCA BVCC-38295 ＲＣＡ国内盤独自企画である「ユージン・オーマンディ＆フィラデルフィ アの芸術」の第３弾２０点のうちの１つです。収録されている２つの録音 とも世界初ＣＤ化となります。 さっそく聴いてみると，最初に収録されている交響曲５番の第１楽章は わずかにゆっくり目のテンポで，悠然と作品の世界を描き出し，第２楽章 もテンポを急ぐことはありませんが，明快に刻み込んだリズム感の味わい が絶妙です。 第３楽章ではこの楽章独自の清澄な悲哀感の世界に感情的に入り込むこ となく練達の技を持ってダイナミックレンジの広い演奏を繰り広げていま すし，第４楽章でも正確無比なアンサンブルとやや遅めのテンポを取るこ とでフレーズの絡まりが明瞭に聴き取れると同時にソロの妙味も十二分に 堪能することができ，最後は堂々たる音の構築を聴かせて演奏を終えてい ました。 この交響曲５番の演奏は，作品の諧謔性の表現は希薄としても，このコ ンビならではの厚みのあるリッチな響きをもってスケール感豊かな演奏を 展開しており，加えてオケの技量も非常に高く，この作品のユニークかつ 見事な名演ではないかと思います。 「ピーターと狼」の録音は，ＲＣＡの誇るスーパースターのデヴィッド・ ボウイによる語りであることも，ＬＰ発売当時大きな話題となりました。 ＬＰで発売されていたときはブリテンの青少年のための管弦楽曲入門がカッ プリングされていました。 このナレーションの録音が行われた１９７７年頃のボウイというと「ロ ウ」や「ヒーローズ」といったシュールでシリアスなアルバムで世に衝撃 を与えていた時期ですが，このナレーションは端正な声を基本にいくつも の声色を使い分けていて，その役者ぶりには驚かされますし，聴いていて 実に楽しい語りだと思います。 この作品の音楽はソロと弦楽アンサンブルが主体ですが，ここではフィ ラデルフィア管の名妓性が遺憾なく発揮されたリッチで聴き映えのする演 奏を堪能することができますが，持ち前のややウェットなしっとりとした 響きの演奏ゆえ，もう少し軽快な演奏を好まれる向きもあるかもしれませ ん。 そんなわけで，このＣＤに収録された演奏は，いずれもこのコンビの持 ち味が十二分に発揮された高水準な演奏を堪能できるものであり，非常に 個性的な魅力のある演奏ゆえ，それを受け入れられるかどうかで評価は異 なってくるかもしれませんが，いずれにせよ，これは１つの明快な価値観， 美意識をもった高水準の演奏であることは疑いなく，ぜひとも一聴をお薦 めしたいと思います。
2004.1.11
