サラ・チャンのドヴォルザークの協奏曲とピアノ五重奏曲
国内盤ＣＤ 輸入盤ＣＣＣＤ
◎ドヴォルザーク ヴァイオリン協奏曲 <2001.6> サラ・チャン（ヴァイオリン）， コリン・ディヴィス指揮，ロンドン響 ピアノ五重奏曲第２番イ長調作品８１ Ｂ１５５ <2002.5> サラ・チャン（ヴァイオリン）， レイフ・オヴェ・アンスネス（ピアノ）， アレクサンダー・ケール（ヴァイオリン）， ヴォルフラム・クリスト（ヴィオラ）， ゲオルク・ファウスト（チェロ） 東芝EMI TOCE-55569 ※参考盤 英EMI 5 57439 2 (CCCD) 十代の頃から世界の檜舞台で活躍している女流ヴァイオリニストのサラ・チャ ン（Sarah Chang, 1980-）の最新録音です。この音盤は国内盤はＣＤで発売さ れましたが，輸入盤はＣＤではなくＣＣＣＤで発売されており，音質差にも興 味があったので両方とも入手して聴いてみることにしました。 まずは国内盤ＣＤから聴いてみましたが，最初のヴァイオリン協奏曲の伴奏 を務めるコリン・ディヴィスとロンドン響は，同響の自主制作レーベルからド ヴォルザークの交響曲のライヴ録音を続けざまにリリースしているところであ り，このＣＤでの演奏もそれらと同様に，すっきりとした響きながら，大変誠 実かつ入念な音楽づくりをしていて傾聴させられます。 サラ・チャンのヴァイオリンは，華やかさとか派手さといった印象の演奏で はなく，大袈裟な表現を避け，隅々まで行き届いた丁寧な描写で弾き進みつつ も，作品に対する素晴らしい共感と，ひとかたならぬ思い入れが，確かな手応 えと存在感とともに聴き手の胸に迫ってきますし，これはサラ・チャンの真摯 な演奏姿勢と深い情感の伝わる素晴らしく感動的な演奏ではないかと思います。 続いてのピアノ五重奏曲は，アンサンブルの中心となるアンスネスのピアノ が，ややクールで深めのタッチの音色で支え，弦楽陣も無理のない筆致で余裕 を持って演奏しており，深刻になったり重苦しくなっりすることはなくカラッ としていて聴いていて心が軽くなる思いのする演奏です。 演奏している面々はいずれも当代の腕利きたちではあるのですが，ここでは 持てる技量を最大限発揮して火花の散るようなスリリングな演奏を行うという のではなく，高度な技量の一端を披瀝しつつも，巧まず滲み出るアンサンブル の愉悦感に包まれていて，聴き方によっては安易な演奏に感じられるかもしれ ませんが，音楽を楽しむことの原点を思い起こさせてくれているように感じま した。 このＣＤに収録されている２つの作品の演奏は，非常に対照的な内容でした が，いずれ劣らぬ名演を堪能できる，１枚で２度楽しめるお買い得盤であり， これは広くお薦めしたいと思います。 と，以上は国内盤ＣＤを聴いての感想でしたが，今度は輸入盤ＣＣＣＤの方 を聴いてみると，音質が大きく異なっていることに驚きます。響き全体に金属 的な光沢が被さって，音色の細やかニュアンスを聴くことができませんし，音 の実在感や定位も曖昧で空間の中で何となく響いているような感じですし，カ ラッとした音が出なくてジメジメしていますし，ピラミッド型の帯域バランス ではなく腰高な印象ですし，何となくビットを間引いたような感じの音ですし， 要するに通常のＣＤの音のクオリティでは全くないのです。 これだけ音が違うとなると，これは何としてでも国内盤ＣＤで聴くべきだと 思います。英ＥＭＩはＣＣＣＤを強力に推進しているのだそうですが，これは 考え直してほしいですね。
2003.6.9
