ケンペ指揮ミュンヘンフィルのグレートとメタモルフォーゼン
◎シューベルト 交響曲第９番 ハ長調 Ｒ・シュトラウス メタモルフォーゼン ルドルフ・ケンペ指揮，ミュンヘンフィル <1968.5.22〜27> SONY CLASSICAL SICC 57 ここのところ，ＢＢＣレジェンドなどからも目覚ましい演奏のライヴ録音が リリースされているルドルフ・ケンペがミュンヘンフィルの音楽監督を努めて いた頃のドイツＣＢＳに録音で，ＬＰ４枚分の音源が３枚のＣＤで発売されま した。このＣＤは特に興味をそそる収録内容だったので，さっそく入手して聴 いてみることにしました。両曲とも世界初ＣＤ化だそうです。 私もこれらの録音を聴くのは初めてですが，最初のシューベルトでは，明朗 で健康的で張りのある演奏だなというのが第一印象でしたが，ケンペのタクト に対するオケの反応が抜群によく，この作品でこれほど胃にもたれない演奏を 聴くのは初めてではないかと思えるほどです。 ここでのケンペのやや骨太で男性的に歌われる旋律は大変に爽快な味わいが あり，ストイックさやシリアスさを感じさせない，正面切った解釈は実に潔い もので，聴いていて自分自身の中に覇気が甦ってくるのが実感できる大変に得 難い演奏です。 続いてのメタモルフォーゼンの方は作品に対する謙虚さを感じさせるもので， タクトに向かっての求心力を感じる大変集中度の高い演奏であり，ゆるぎない 造形感と，しっとり感を伴った充実した響きを聴かせながらも，表現はむしろ 抑制気味で，徒に表現を造ろうとしない誠実なアプローチには打たれる思いが します。これを聴いていると，演奏によってではない，作品そのものが語りう る表現力を再認識させられる思いです。 このＣＤに収録された２曲はいずれも私の大好きな作品ですが，シューベル トでの，響きの重量感もキレもあるのに軽さを感じる演奏といい，メタモルフォ ーゼンでの，かつて聴いたことがないほどに作品の存在感を感じる演奏といい， いずれも聴く前には想像すらできなかったほどの素晴らしさで，私自身，何度 でも聴きたい，いつまでも聴いていたいと思わずにはいられないほど強く惹き 付けられてしまいました。これはいつまでも色褪せない喜びと充実感を聴き手 にもたらしてくれる１枚として強く推薦したいと思います。
2002.4.24
