小沢征爾指揮の２００２年ニューイヤーコンサート
国内盤 輸入盤
◎ヨハン・シュトラウス２世 喜歌劇「こうもり」序曲 ワルツ「芸術家の生活」 ヨーゼフ・シュトラウス ポルカ・マズルカ「おしゃべり女」 ポルカ・シュネル「前進」 ワルツ「水彩画」 ポルカ・マズルカ「とんぼ」 ポルカ・シュネル「おしゃべりな可愛いお口」 ヨーゼフ・ヘルメスベルガー２世 悪魔の踊り ヨハン・シュトラウス２世 エリーゼ・ポルカ ワルツ「ウィーン気質」 チク・タク・ポルカ ◇指揮者と楽団員による各国語での新年の挨拶 ヨハン・シュトラウス２世 ワルツ「美しき青きドナウ」 ヨハン・シュトラウス１世 ラデツキー行進曲 ※国内盤のみに収録 ヨハン・シュトラウス２世 アンネン・ポルカ ヨーゼフ・シュトラウス ポルカ・シュネル「大急ぎで」 ※輸入盤のみに収録 ヨハン・シュトラウス２世 行進曲「乾杯！」 小沢征爾指揮，ウィーンフィル <2002.1.1> （国内盤）フィリップス UCCP-9413 （輸入盤）蘭PHILIPS 468 999-2 小沢征爾が登場するということで，国内でも大きな話題となったニューイヤ ーコンサートのライヴ録音ＣＤは今月中旬までには輸入盤が店頭に並んでいま したし，国内盤も１月１９日に発売されました。私はニューイヤーコンサート のＣＤは毎年入手しているのですが，今年はボーナストラック目当てで国内盤 を予約して入手しました。 今年のニューイヤーコンサートでの演奏は，ＢＳ２の衛星中継を録画して何 度も視聴しているのですが，近年聴かれることのなかった本格的に素晴らしい ウィンナワルツであることにすっかり驚嘆してしまいました。優雅で気品があっ て華やかさにも欠けておらず，ウィーンフィルならではの美しい響きにも密度 感があって，安易にソフトタッチになることもありませんし，さらにはスケー ル感と広がりもあって，毅然とした佇まいすら見せており，成熟した大人の演 奏でありながら同時にフレッシュな魅力も感じさせているという，これ以上は 考えられないほどの演奏内容だと思っていました。 音質に関しては，ＣＤのほうがずっと優れているでしょうから，入手して聴 くのを大変楽しみにしていたのですが，いざ入手してみるとＣＤ１枚だけなの で，プログラムの全曲が収録されているわけではないのはやむを得ないとして， 私の大好きな作品であるワルツ「カーニバルの使者」が収録されていないのが 大変残念なところで，作品の魅力の割にはあまり知られていないこのワルツが 広く聴かれることになるのではと密かに期待していただけに，落胆は隠せませ ん。 それで入手した国内盤ＣＤをさっそく聴いてみたのですが，音質は衛星中継 のものとは大きく異なっていて，残響がほとんど入っておらず，直接音中心で 音像もかなり近く捉えられています。そしてそれ以上に困惑してしまったのは， 優雅さも気品も華やかさも，響きの密度感も，スケール感も広がりも，毅然と した佇まいも感じられず，聴いていてあまりにつまらないために，最後まで聴 き通すのが大変でした。もちろん，一度聴いただけでは分からないと思い，繰 り返し何度も聴いたのですが，その印象は変わらず，せっかくの名演がこの音 質では台無しではないかと思うと，残念さを通り越して怒りすらこみ上げてき ました。 とはいえ，このライヴ録音は国内盤だけでなく，輸入盤でも発売されており， オーストリアではポップスも含めたヒットチャートの１位だったというし，私 自身，同一録音を輸入盤と国内盤の両方で聴いた場合には，輸入盤の音質の方 が格段に好ましいと思えることが常だったので，一縷の望みを託して輸入盤の 方も入手して聴いてみることにしました。 それで問題の輸入盤の音質なのですが，衛星中継の音声と比較して残響が少 なく，直接的中心であることは国内盤ＣＤと同様なのですが，驚くべきことに 聴いた印象は全く異なり，優雅さも気品も華やかさも，響きの密度感も，スケ ール感も広がりも，毅然とした佇まいもが，素晴らしいソノリティとともに甦っ ているのです。この音質があまりに魅力的なので，聴き始まると最後までやめ られず，聴き終えるとまたすぐに聴きたくなってしまい，今度は嬉しい困惑を 感じています。 それにしても，国内盤と輸入盤の音質ではなにがそんなに違うのかというと， 音のクリヤーさやヌケのよさが全然違いますし，国内盤のＣＤには音のニュア ンスや雰囲気といった要素が全然入ってないのではないでしょうか。もちろん， 人によって聴き方はいろいろあるでしょうし，例えば，スコアを見ながら演奏 上の特色をチェックするのであれば，国内盤と輸入盤のどちらで聴いても同じ だろうと思います。 しかし私の場合，楽譜の解釈や奏法上の特色などには無頓着な方で，演奏を 通じて伝わってくる表現内容やメッセージ，演奏者のパーソナリティ，響きの ニュアンスや会場の雰囲気などを重視しており，要するに感覚で聴いているの で，今回のＣＤでの国内盤と輸入盤の音質の違いは深刻です。 そんなわけで，このライヴ録音のＣＤを入手されるのでしたら，私としては 絶対的に輸入盤をお薦めしたいと思いますし，国内盤ＣＤを聴いていまひとつ 楽しめないと感じておられる方も，気を取り直して輸入盤を聴かれてみてはい かがかと思います。 最後に疑問に思えてならないのは，どうして国内盤の音質はこんなにひどい んでしょうね。国内盤制作に用いたマスターのクオリティに問題があったので しょうか。仮にそうだとしても，国内盤の制作者にはこの音質の悪さには気付 いてほしいですね。あるいは音の善し悪しのわからない人たちが制作していた ということなんでしょうか。まさか，予告した発売日に間に合わすために音質 には目をつぶって発売してしまったなんてことはないでしょうね。
2002.1.29
