リコルディ録音のアルゲリッチのシューマン
◎シューマン 幻想曲 幻想小曲集 アルゲリッチ（ピアノ）<1976> RCA-RICORDI BVCC-35111 アルゲリッチが１９７０年代後半から８０年代にかけてイタリアのリコルディ に録音していたＬＰ３枚分の録音がこのほどＲＣＡレーベルから再発売になり ましたが，その中の１枚です。この録音は国内盤ではプラッツから，国内盤と 輸入盤の両方でＥＭＩからＣＤ化されていました。この録音の正確な録音日付 と録音会場はリコルディにもデータがなく分らないのだそうです。 アルゲリッチの上記２曲のうち，幻想曲は１９６６年１月のカーネギーホー ルでのライヴと１９７４年３月のライヴが海賊盤とおぼしきＣＤで発売されて いますが正規盤としてはこの録音が唯一となります。幻想小曲集も当盤が長ら く唯一の録音でしたが，昨年になって１９７８年３月のアムステルダムでのラ イヴがＥＭＩから発売になりました。 私はこの録音はプラッツの国内盤ＣＤで聴いていましたが，アルゲリッチら しい感興に満ちた音楽運びと，破綻のない鮮やかなテクニックを効かせてはい るものの，音は冴えないし，いま１つ乗り切らない演奏のように思え，これは 私自身の意見のみならず，大方の評価としても，アルゲリッチの録音の中でも 決して評価が高いとはいえなかったのではないでしょうか。 そんなわけで，この演奏に関しては私も聴き知っているつもりだったわけで すが，今回の再発売ではオリジナルマスターから２４ビット／９６Ｋマスタリ ングをしていて音質も一新しているということであり，果たしてどんな音質で 聴けるか興味津々でもあったので，さっそく入手して聴くことにしました。 それでさっそく聴いてみた印象なのですが，はっきり言って，これまで出て いた音盤とは別物と思えるほどの，見違える音質で甦っており，音にリアリティ があって，ピアノのブリリアントな質感もよく出ていますし，細やかな演奏上 のニュアンスにを機敏に描き出しており，まさに眠りから覚めたともいうべき 驚異の音質を聴くことができます。 もちろん，リマスタリングで音質がよくなったとしても，元々の演奏は同一 であり，これで演奏の印象まで大きく変わるとなると，聴く側の聴取能力が問 題なのかもしれませんが，目の前で演奏されているようなリアリティがあるた めに，演奏の意図がひときわ明瞭に感じ取れますし，録音会場の雰囲気もリア ルに伝わってきて，のめり込むような熱演ではないにしても，アルゲリッチ自 身は十二分に演奏に集中していて，内面から湧き出るものを素直に演奏に刻み 込んでいるのが伝わってきて，演奏とコミュニケーションする喜びに心が満た されていく思いがするほどです。 とはいえ，いくら音質がよくなったとしても，音の厚みや低域の力感などは 同時期のグラモフォン盤ほどではなく，この点ではリマスタリングの限界かも しれませんが，音のリアリティや響きの質感，そしてアルゲリッチの演奏上の 意図が明快に伝わるという点ではグラモフォン盤をも凌いでいるのではないか と思います。 このＣＤに関しては，２４ビット／９６Ｋマスタリングということで試しに 入手してみただけであって，演奏は以前と同一なわけですから，音質向上の期 待はあったにしても，正直なところ，演奏自体に対しては全く期待しないで聴 いたのでしたが，演奏までもが生き返って聴こえたことは私には嬉しい誤算で した。 というわけで，このＣＤはすでに他のＣＤでこの録音をお持ちの方にもお薦 めですし，もちろん，まだ聴いたことのない方にも自信を持ってお薦めできる １枚だと思います。私も，この感想を書いている時点でもう何度繰り返し聴い たか分かりません。それほどまでに素晴らしい演奏であり，音質であると思い ます。
2001.6.24
