ヴァント指揮，北ドイツ放送響の来日公演ライヴ
◎シューベルト 交響曲第８番「未完成」 ブルックナー 交響曲第９番 ヴァント指揮，北ドイツ放送響 <2000.11.12〜14> RCA BVCC-34039〜40 昨年来日公演を行って大きな話題となった，ヴァント指揮の北ドイツ放送響 の東京オペラシティコンサートホール「タケミツ・メモリアル」でのライヴ録 音が発売になりました。 ヴァントは昨年の１１月１０日に来日し，翌日の１１日にリハーサルを行い， １２日から１４日の３日連続で同一会場同一公演という，本拠地での定期演奏 会のような公演を行いました。 これらの演奏のうち，１４日の公演の映像はＮＨＫが放映しており，１３日 の公演の映像はこのＣＤど同時にＤＶＤで発売されました。それに対し，この ＣＤは３日間の公演を編集したものです。 ＮＨＫが放映した映像は私も視聴しており，想像以上に聴くべき内容を持っ た豊かな演奏になっていることに驚き，ＣＤ化されないものかと思っていたの ですが，それが無事に発売に漕ぎ着けたということで，さっそく入手して聴い てみることにしました。 このＣＤの感想については，さきの映像の視聴の印象にとらわれずに，聴い た感想のみを率直に述べたいと思いますが，最初の「未完成」は大変集中度の 高い演奏でありながら，堅苦しいようなところはなく，精神的な純度が高いと でもいうべき，雑念や猥雑性とは無縁の美しい響きを聴かせていて，ひたすら に道を究めようとするひたむきな姿勢からさらに一歩進んで，なし得る最善の ものによってもたらされる充実感に心静かに浸れる趣の演奏であり，この作品 の大変に優れた名演といえるものだと思います。 続いて演奏されるブルックナーでは，もっと自在な印象の演奏で，１つ１つ のフレーズに対する意味付けを有していて，テンポや表情を多彩に変化させな がら念入りに歌われており，聴き手の心に実り豊かな充実感を抱かせる実に素 晴らしい演奏を聴かせていました。 ヴァントは年齢を重ねてもなお，自らの演奏を極めようとする厳しい姿勢は いささかも揺らぐことがなく，これまでにも身の引き締まるような名演の数々 を聴かせてきたところで，それによってヴァントの指揮に対する信頼なり，評 価なりを勝ち得てきたところであったと思うのですが，それが技術的なレベル での完璧さを追求するだけであったとしたら，それは不毛でしかないのではな いかという気持ちが拭えませんでした。 それが今回の演奏を聴いてみると，ヴァントの表現を追求しようとする非妥 協的姿勢はいささかも揺らいではいないものの，その姿勢は自らの内にとどめ， オーケストラに対して叱咤するようなことはせずに，持てる最善の内容を引き 出しつつ，それをさらに少しでも引き上げていこうとする意識が感じられて， ヴァントの人格の高潔さに感嘆するほかありません。 そんなわけで，この録音はヴァントの数多い録音の中にあっても，ひときわ 内容の豊かな説得力に満ちた演奏を聴かせており，私としては現時点でのヴァ ントの最も優れた録音であり，何としてでも聴くべき名盤ではないかと思いま す。
2001.6.10
