小川典子のドビュッシーピアノ作品集Ｖｏｌ．１
◎ドビュッシー 映像第１集，第２集 映像(1894) 版画 仮面 喜びの島 小川典子（ピアノ） 瑞典BIS CD-1105 ここのところスウェーデンのＢＩＳに積極的に録音を行っている小川典子 が今度はドビュッシーのピアノ曲集の録音を開始し，このＣＤはその第１弾 ということです。今回のＣＤには１８９４年の映像が収録されているのが珍 しく，３曲からなるこの作品集は１９７７年に出版されるまで長く忘れられ ていたもので，第２曲「ルーヴルの思いで」は，「ピアノのために」の第２ 曲「サラバンド」に転用され，第３曲「『いやな天気だからもう森に行かな い』の諸相」は，「版画」の第３曲「雨の庭」の草案となったものです。 それで聴いてみた印象ですが，モノクロームでやや硬質な印象の響きでは あるものの，絶妙な間と，違和感のない自然なフレージングと，そして美し い余韻を残す演奏で，その見事なコントロールには息を呑んで聴き入ってし まいました。 また，目まぐるしいパッセージも余裕を持って克明に弾かれていて，軽快 なリズム感が心地よいと同時に，演奏全体に漂う深い余韻を損なうことなく 一貫したコンセプトの解釈が貫かれていて，いつの間にか小川典子はこれほ どまでに周到な演奏ができるようになっていたのかと驚くばかりです。 一方で，この演奏に音色のカラフルさや，陽光の差すような明るさ，ある いは自在にファンタジーが駆けめぐるような面は期待できませんし，そういっ た演奏を聴きたい方からすると，この録音での演奏は生真面目で愉悦感に乏 しい「寒い演奏」と思われるかもしれません。 しかしながら，これはこれで，明快な方向性を示した自分自身の解釈を聴 かせており，見事な演奏テクニックともども，真剣に向き合って拝聴するに 値する充実した録音であり，日本人ピアニストによって演奏されたドビュッ シーとしては画期的なまでに見事な演奏だと思いますし，ぜひ一聴をお薦め したいと思います。
2001.6.9
