エルムレル指揮ボリショイ劇場管によるボロディンの交響曲
◎ボロディン 交響曲第１番 第２番 第３番 マルク・エルムレル指揮，ボリショイ劇場管 <2000.9> 仏LE CHANT DU MONDE RUS 288169 (2CD) エルムレル指揮ボリショイ劇場管による，ボロディンの交響曲全３曲の録音 です。ボロディンの交響曲は，ＣＤによっては全３曲が１枚に収録される場合 もあるのですが，この録音は３曲で８０分を超えているため２枚組となってい て，１ＣＤ価格で売られていました。 さっそく聴いてみた印象ですが，さすがボリショイ劇場管！と思わせる色彩 的で明るい音色が実に魅力的で，フレーズも大変メロディアスに歌われており， 性格描写の明快な，耳に心地よい演奏を聴かせています。 交響曲１番は，比較的オーソドックスな印象で，民族的フレーズを明るく洗 練された，見通しのよいリファインされた演奏で聴かせているのですが，劇場 のオケという特質なのか，ダイナミックレンジの幅が狭く，強烈なアタックが 聴かれるようなこともないのですが，その幅の狭いダイナミックレンジを実に 巧みに生かした演奏を行っていて，聴いていて過不足を感じませんし，自然な リズム感とカラフルな音色を心から楽しむことができました。 これが第２番になると，この曲の多くの演奏と比較してもフレーズのアタッ クを際立たせず，きびきびと演奏が運ばれていくのでもなく，もっと自然に軽 やかにフレーズが流れていて，しかも演奏を支えるリズム感はいささかも崩れ ることがなく，オケの音色も色彩感に溢れたどこかメルヘンチックな印象すら あり，こうなってくると交響曲というよりバレエ音楽を聴いているような思い がするほどなのですが，終始わくわくしながら聴ける魅力的な演奏でした。 最後の第３番も，実に美しい洗練された響きの感興豊かな演奏で，聴いてい て心洗われる思いであり，ただただ聴き惚れるばかりなんですが，それだけで はなく，演奏全体が大きな流れの中で運ばれていると実感できるスケール感も あって，美しさに加えて充実した手応えが胸に残る演奏でした。 こうして聴いてみると，ボリショイ劇場管の演奏は，カラフルで洗練されて いて，明るくて軽やかな愉悦感に満ちていて，ナチュラルなリズム感も心地よ くてと，驚くばかりの魅力に満ちあふれており，聴きながらひたすら耳の快感 に酔いしれておりました。 聴く前にはロシア勢によるボロディンの交響曲ということで，もっと力感優 先の演奏なのかなとも思っていましたが，その予想は全く外れ，フィギュレー ションの粋を尽くしためくるめく美演を繰り広げていました。これはオケの色 彩感を生かした録音に負うところもあるのでしょうが，いずれにせよ，こんな に魅力的な管弦楽の演奏なんて滅多に聴けるものではありませんし，ぜひ多く の方にこの耳の快感を味わっていただきたいと思います。
2001.6.6
