１９６５年４月２４日 東京文化会館
◎ワーグナー 楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死 シューベルト 交響曲第８番「未完成」 ドヴォルザーク 交響曲第９番「新世界より」 クーベリック指揮，バイエルン放送響 <1965.4.24> Altus ALT-010 シリーズ３枚目は４月２４日の東京文化会館でのライヴ録音です。 最初のトリスタンは，ややゆっくり目のテンポ悠然とした流れをつくり出して おり，官能的なうねりとか肉感性といった面は希薄で，むしろ禁欲的でスタティッ クな中に緊張感を漂わせているといった雰囲気があり，クライマックスに向かっ てもその冷静なアプローチに変化はないのですが，抑制された響きであるがゆえ に，そこに込められた秘めたる感情がなおさら強く印象付けられる思いのする， 真摯さに心打たれる演奏でした。 続く未完成交響曲は，これまでの全力投球といった印象の演奏とは一変して大 変デリケートな響きを聴かせており，旋律は唖然とするほど美しくて，ここぞと いうときの劇的な一撃にも不足はなく，要するに曲趣に応じた多様な美しさを自 在に表現しえており，これまで何十種類聴いてきたか分らないこの作品の演奏の 中でも間違いなくトップに位置する出来栄えの超名演だと思います。 最後は新世界交響曲です。クーベリックはこの作品をシカゴ響，ウィーンフィ ル，ベルリンフィルとスタジオ録音を行っていて，その後チェコフィルとの １９９１年のライヴ録音も発売されましたが，意外なことに，バイエルン放送響 との録音が正規盤ＣＤで発売されるのは初めてではないでしょうか。 この作品では，引き締まったアンサンブルによって大変に俊敏でかつ彫りの深 い演奏を聴かせており，響きにはコクがあって，旋律も巧みな表情付けで歌われ ており，技術的なレベルの高さと，作品に対するひとかたならぬ共感と，激しい までの表現意欲が横溢していて，聴いていてそれがストレートに伝わってきて強 く胸打たれる名演でした。 このＣＤでの演奏は，いずれもクーベリックの真摯な演奏姿勢が貫かれたもの ではありながら，３つの作品それぞれの世界を見事に描き分けており，これらの 作品を十二分に咀嚼した上で，自らの表現をオケから引き出し得ていることには 感嘆するほかありません。 こうして，今回の３枚のライヴ録音のＣＤを聴いてみると，確かにこれは伝説 的ともいうべき名演の数々であったように思います。音質についてはこれまで述 べてきたとおり，必ずしも十全なものではありませんが，これだけの名演が聴け るとなれば些細な問題に過ぎません。これらの録音がＣＤとして発売され，耳に することができたことに対しては深く感謝したいと思いますし，掛け値なしの名 演として強くお薦めしたいと思います。
2001.4.24
