アン・シャインのシューマン
◎シューマン ダヴィッド同盟舞曲集 アラベスク フモレスケ アン・シャイン（ピアノ）<1998.8&9> 米IVORY CLASSICS 71006 アメリカの女流ピアニスト，アン・シャインのシューマンのＣＤが発売され ると知り，同レーベルのウェブサイトから直接購入しました。シャインの録音 は，１９５０〜６０年代にかけて，米ＫＡＰＰレーベルに録音していたほか， 最近では，伊エランからシューマンの室内楽曲のライヴ，米フェニックスから ネッド・ロレムの作品，ソニークラシカルからジェシー・ノーマンのベルク歌 曲の伴奏などが出ていましたが，マイナーなリリースが多いこともあって，私 自身もほとんど聴いていませんでした。 それでさっそく聴いてみた印象ですが，テンポは中庸から若干遅めといった ところで，ほどよいリズム感とフレージングを聴かせていますが，世界のトッ プクラスのピアニストたちの有するテクニックのキレとか，響きの純度の高さ といったレベルの演奏ではありません。 しかしながらこの演奏は，作品に対する暖かな共感が感じられ，自らの実現 し得る範囲の中で，しっかりと地に足のついた自分自身の表現の世界が，等身 大の演奏から率直に滲み出ているといった印象があって，ある意味で現状満足 型とも言えるのかもしれませんが，これを聴いていると，穏やかにさりげなく， 作品のよさ，演奏のよさが伝わってきて静かな余韻の残る思いであり，なんと いうか，ささやかに幸せな演奏です。 たしかにこれは，作品に込められた表現の世界を描き尽くすタイプの演奏で はないのですが，シャイン自身が作品と対話していく中で形づくられてきた豊 かな実りのおすそ分けを受けているようなインティメートな雰囲気があり，毎 回述べていることですが，演奏行為は人の人に対するメッセージなのですから， このような聴き手を歓待してくれているように感じられる演奏ができるという のは，シャイン自身の暖かな人間性と音楽性の賜物ではないでしょうか。 というわけで，このＣＤはふと寂しさを感じ何か聴きたくなったときに，聴 き手の心に静かに語りかけ，癒してくれる，誠に得難い１枚だと思います。技 術的に世界トップクラスではないと述べてしまいましたが，しかし紛れもなく プロのピアニストとして一流の技量を持った演奏を行っているので，安心して 聴いていただきたいなと思います。
2001.3.20
