アバド指揮ロンドン響のマーラー１番ライヴ
◎マーラー 交響曲第１番 <1983.5.17> アバド指揮，ロンドン響 米LUCKY BALL LB 0050 アバドがロンドン響を指揮したマーラーのライヴ録音が発売されました。 アバドは以前からマーラーを積極的に指揮していますが，ロンドン響を指揮 したマーラーの交響曲は初登場ではないでしょうか。 アバドはこれより２年前の１９８１年にシカゴ響を指揮してグラモフォン この作品を録音しており，これはアバドの朗々と旋律を歌う美質が遺憾なく 発揮された大変に清々しい演奏で，数多いこの作品の録音の中でも特に好き な１枚でした。今回の録音はそのグラモフォン盤の２年後の演奏になります が，ライヴ録音ならではの感興に満ちた，あるいはボルテージの高い演奏が 聴けるのではないかと期待して入手しました。 この録音でも，演奏全体の印象はシカゴ響とのグラモフォン盤に近いもの で，クールなまでに引き締まったアンサンブルを基調に，ダイナミックスの 幅の広い聴き応えのある演奏を繰り広げており，心地よいカンタービレが全 曲を通じて聴かれ，この演奏はマーラー自身の意図からすれば，あまりに明 朗すぎるのかもしれませんが，この作品のこれほどまでに光差す輝かしい演 奏というのは比類がありません。 この録音はライヴということで，シカゴ響とのグラモフォン盤以上に流れ の良さや，テンポの変化の自在さがあって，演奏のコンセプトがよりストレ ートに伝わってきて惹き付けられますが，金管の聴かせどころでミスが目立 つのはご愛敬としても，録音のダイナミックレンジが狭く，フォルテが爆発 するところで録音レベルが圧縮されてしまっているのは大いに感興を殺がれ るところで，私自身，こういった点は頭の中で補いながら聴いていたのでし たが，グラモフォン盤を聴いたことがないとこういった頭の中での補正は難 しいかもしれません。 アバドのマーラー１番は，１９８９年のベルリンフィルとのライヴ録音も グラモフォンから出ており，今やアバドのマーラー１番というとこちらの録 音の方が一般的かもしれませんが，こちらの録音はシカゴ響との録音以上に 構成感のしっかりした，重量感のあるゆるぎない演奏を聴かせていて旋律を 歌う魅力にも溢れており，より完成度の高い演奏といえるのかもしれません が，シカゴ響との録音で聴かれた，軽やかに飛翔しのびやかに旋律を歌うと いった自在さはかなり後退しています。 このＣＤは，シカゴ響との録音がお気に召している方になら，技術面，音 質面での問題はあるものの，ライヴならではの臨場感が楽しめてお薦めです が，シカゴ響との録音をまだお聴きでないのでしたら，まずはそのグラモフォ ン盤からお聴きになることをお薦めします。
2000.12.30
