ギーゼキング・イン・東京

◎《ギーゼキング・イン・東京》

　　※ギーゼキングのナレーション

　モーツァルト　ピアノ・ソナタ第１１番「トルコ行進曲付き」

　　※ギーゼキングのナレーション

　ドビュッシー　ベルガマスク組曲〜「月の光」

　　※ギーゼキングのナレーション

　ラヴェル　　　水の戯れ

　　　ギーゼキング（ピアノ）<1953.4.1>

　　　東芝ＥＭＩ　TOCE-11566


　東芝ＥＭＩがリリースを続けている，ワルター・ギーゼキングの芸術のシリ
ーズに，１９５３年の来日時の録音が登場しました。ギーゼキングはこの来日
時には東京，大阪，名古屋，福岡，札幌，仙台で合計１３回の演奏会を行い，
その模様はＮＨＫから放送もされているのですが，これらとは別に，東京放送
（ＴＢＳ）がギーゼキングをスタジオに招いて３０分の特別番組を制作しまし
た。このＣＤに収録されているのはその番組で放送された演奏です。

　３０分番組とはいっても民間放送ですからＣＭの時間があり，また番組の前
後のアナウンスの時間もあるので，このＣＤの収録時間は２４分ほどでしかあ
りません。スタジオ録音といっても聴衆を入れての収録で，演奏前後の拍手も
収録されています。

　各曲が始まる前にギーゼキング自身のナレーションがあり，フランス語で話
されていて解説書には和訳が掲載されています。その声は非常に体格のよい，
健康的で張りのある印象です。

　演奏の方ですが，最初のモーツァルトのソナタは，淡々と弾いているようで
ありながらとても洒脱で，音色も芯がしっかりしていると同時になじみのよさ
があり，聴いていて遊び心と愉悦感の伝わってくる，非常になごむ演奏です。

　続くドビュッシーは，シャープでくっきりした音色の澄み切った叙情性を感
じさせるもので，同時に強弱の幅も広くて克明に弾かれており，イマジネーショ
ン豊かな心象風景がリアルに伝わるといった趣の演奏を聴かせています。

　最後のラヴェルはかなり速めのテンポで弾かれており，水がはじけていくよ
うな，一所に止まらずに暇もなく流れていくといった趣の演奏です。また，音
色も透明感のある美しさを聴かせています。

　このＣＤに収録されているのはたった３０分の番組の演奏ではあるのですが，
ギーゼキングの演奏の持ち味，特色が十全に発揮されていて，モーツァルトで
は淡々とした演奏の中に滲み出るエピキュリアンな味わいを聴かせ，ドビュッ
シーやラヴェルでは，リアルで即物的な弾き方をしているようでありながらイ
マジネーションやインスピレーションの豊かさを聴かせており，これを聴くだ
けでも，ギーゼキングがいかに優れたピアニストであるかが伝わるものだと思
います。

　というわけで，このＣＤはこの時期の録音としては音質も，ピアノの音色が
十全に伝わるものでまずは申し分のないものですし，演奏も大変聴き応えがあっ
て，たった２４分の収録で税込み２０００円というのはたしかに割高感を感じ
てしまうものの，これは入手して聴く価値の十分あるものだと思います。

2000.11.26