マレイ・ペライアのゴールドベルク変奏曲
◎バッハ ゴールドベルク変奏曲 ＢＷＶ９８８ ペライア（ピアノ） 米SONY CLASSICAL SK 89243 ペライアのイギリス組曲に続くバッハの録音として，ゴールドベルク変奏曲 が発売になりました。少し前から店頭に並んでいますが，私はＨＭＶの３点買 うと１４９０円になるセールで入手しました。 さっそく聴いてみた印象なんですが，大変に克明かつ端正な演奏で，装飾音 をあちこちにちりばめながら，鍵盤からやや早めに指を離すことで短かめに音 を切るような弾き方をしていて譜面の隅々まで聴き通せるような印象がありま すし，強弱のコントロールが実に見事で演奏に立体感があり，ピアノでバッハ を弾くことで可能となる表現力をまざまざと聴かせてくれています。 また，この作品の要といえるバスについては，軽やかでなめらかな印象すら あり，決して上声部の邪魔をしないよう抑え目の音量で弾かれていながら他声 部とのコンビネーションが実に見事で，聴いていて新鮮な印象があるというだ けでなく，ペライアの眼光紙背に徹する譜読みと，現実の演奏として組み立て ていく技量の高さを感じないではいられません。 演奏のキャラクターとしては多少生真面目な印象はあるのですが，決して四 角四面というわけではなく，リズムは落ち着いた中にもほどよいノリが感じら れますし，特に第１６変奏以降は一段と生気や推進力があって惹きつけられま すし，沈着に演奏することと，活き活きとした演奏をすることとが見事に両立 しており，名演のあまたあるこの作品の録音の中にあっても，演奏の完成度と いう点ではとりわけ優れた１枚といえるのではないでしょうか。 もっとも，コントロールが見事だということは，その反面で自由闊達さとか， 即興的なひらめきとかは求め難いのもまた事実であり，それこそまさにないも のねだりでしかないのですが，こういった面を聴きたいという方には無理にお 薦めしないほうがいいかも。 私自身はこの演奏に９割方満足できたのですが，残り１割の不満というのは， 自由闊達さや即興的ひらめきが感じられないからというのではなく，演奏のコ ンセプトには納得し，共感はするものの，どこか抑圧的な鬱屈さを感じてしま うからです。まあ，これについては私の気のせいである可能性もあるので，あ まり参考になる感想とはいえないかもしれませんが，一応正直に述べておきた いと思います。
2000.11.23
