ＢＢＣレジェンドのボールト指揮のライヴ録音
◎シューベルト 交響曲第８番「未完成」 ビゼー 小組曲「子供の遊び」 ラヴェル 「ダフニスとクロエ」第２組曲 エードリアン・ボールト指揮，フィルハーモニア管<1964.7.30> シベリウス 交響曲第７番 エードリアン・ボールト指揮，ロイヤルフィル<1963.3.8> 英BBC Music BBCL 4039-2 ＢＢＣ放送の音源を精力的にリリースしているＢＢＣレジェンドシリーズの １枚です。フィルハーモニア管との演奏はロイヤル・アルバート・ホールでの プロムナードコンサートのライヴ録音，ロイヤルフィルとの方はロイヤル・フェ スティバル・ホールでのライヴ録音です。 収録曲を見たときには，フィルハーモニア管とのプロムナードコンサートで 未完成交響曲のようなシリアスな曲を演奏して，会場の雰囲気が暗くなったら どうするんだろうなどど余計なことを思いながら聴き始めたのでしたが，ここ で聴ける演奏は，この作品独自の美しい叙情性をさらりと聴かせていて，深刻 ぶったところがなく，落ち着いた中にも愉悦感が漂う雰囲気に会場が包まれて いるような趣があります。 この演奏が，作品の世界を表現し尽くし得たかというと，全くそうは思いま せんし，あえて深淵に踏み込まずに綺麗事ですませているという面があること も否めません。しかし，それでもこの演奏の愉悦感に満ちた伸びやかな演奏は 大変魅力的であり，演奏終了後の拍手も喚声の交じったの盛大なもので，こう いう演奏を聴いていると指揮者もオケもそして聴衆も本当に楽しむことが上手 だなと感心せずにはいられません。 続くビゼーとラヴェルも同様の傾向の演奏で，作品自体がエンターテイメン トな楽しみ方のできるものなので，難しいことを考えずに素直に聴いて楽しめ ばよいのでしょうが，演奏は決してイージーなものではなく，心洗われるよう な美しい響きと透明感が見事で，力の入り具合も何とも絶妙であり，技術的に も高いレベルの演奏なのに，それが高尚さを指向しないというスタンスにはな んだか教えられる思いがするほどです。 このＣＤの最後は時と場所が異なって，シベリウスの交響曲７番というシベ リウスの作品中でもとりわけスピリチュアルな作品が演奏されています。これ も最初に聴いた未完成のようなタイプの演奏なのかなと思いながら聴き始めた のでしたが，こちらの演奏の方がずっと作品の中に入り込んでいるような印象 があります。 この曲の演奏においても，作品に対する切れ込みは浅めで，響きもイマイチ 重量感に欠け，全体に軽めの印象であることは否めず，この演奏からは強烈な インプレッションとか圧倒的な感動とかは求めがたいのは事実なのですが，そ の反面，余計な力が抜けているためか，響きやフレージングに対する反応が大 変俊敏であり，たしかな共感を感じる細やかなニュアンスの妙味を聴いている と，なんだか「大自然の雄大さを目の前にした訪問者はその光景に圧倒される ばかりだが，毎日その光景を見て生活している人は，日々変わりゆく微妙な移 り変わりを確かな目で見ている。」という違いのようなものを感じました（な んのこっちゃ）。 このＣＤは収録曲もバラエティに富んでいますし，なによりもボールトとい う指揮者の持ち味が素晴らしい演奏で堪能できる素晴らしい１枚であり，強く 推薦したいと思います。これは「聴いてビックリ」という類のＣＤではないで しょうか。
2000.9.24
