タイユフェールのヴァイオリン・ソナタ
◎タイユフェール ヴァイオリン・ソナタ第１番 第２番 ソナティナ 子守歌 ラヴェル ヴァイオリン・ソナタ フランコ・メッツェーナ（ヴァイオリン）， ブルーノ・メッツェーナ（ピアノ） 伊DYNAMIC CDS 223 タイユフェールのヴァイオリン・ソナタ他を収録した比較的珍しいＣＤが出 たのでさっそく入手して聴いてみました。収録曲中，ソナティナは初録音だそ うです。 最初のソナタ第１番は１９２１年に作曲され，ティボーに献呈されています。 作品は４楽章からなり，「遅くならずに適度に」との第１楽章からなかなか素 敵で，親密でやや控えめな語り口の旋律が魅力的であり，ピアノも静かに曲を 支えています。そう思って聴くからなのかもしれませんが，これはティボーが 弾いたらまさにぴったりな曲のように思います。 「早足で荘重にならずに」との第２楽章スケルツォは，小粋で軽やかな足取 りの思わせるもので，ピアノが旋律を奏でるときはヴァイオリンがピツィカー トで支えたりと短い中にも変化があって，ほどよいひねりが楽しめる楽章です。 「十分遅く」と指定された第３楽章は，静かに曲か始まった後，徐々に盛り 上がって情熱的な旋律を聴かせた後，続けて第４楽章フィナーレに突入します。 ここでは自由に思いつくまま弾き進んでいるような印象です。 この曲は作曲された時代の雰囲気を感じさせるモダンな雰囲気を持った，な かなか魅力的な作品だと思います。もっとも，センスは良くても高踏的でない とも感じるのも事実で，それゆえ傑作たり得ないなどど思うのではなく，この 点を積極的に評価して楽しめばいいのではないかと思います。 続くソナタ第２番は１９４７〜８年に作曲され，イヴォンヌ・アストリュク に献呈されています。こちらは３楽章の作品で，１楽章のアレグロ・ノン・ト ロッポは，１番とは雰囲気ががらっと変わって，明朗で気持ちよく歌う旋律が 魅力的で，聴いていて気持ちが晴れ渡る思いがします。 ２楽章アダージェットは，さりげない情感の漂う，心休まる楽章です。３楽 章フィナーレは快活でリズミカルで開放的な思いのする，これまた聴いて心地 よい楽章でした。 ２番の方は１番とは全く性格の異なる，青空の下での明朗でさわやかな印象 の作品で，作品としてのまとまりも１番よりも優れているように思え，もっと 広く演奏されてしかるべき作品ではないでしょうか。 続いてはソナティナです。１９７３〜４年に作曲された３楽章の作品で，第 １楽章モデラートは，スローな旋律のちょっぴりアンニュイな感じがいかにも フランスのソナティナだなという気がします。２楽章アンダンティーノになる と，やや息の長い旋律を気持ちよく歌っていて魅力的です。アレグロの３楽章 フィナーレはリズミックさが加わるのですが，旋律は控えめで，絶妙に抑制さ れたセンスの絶妙さが楽しめました。 ソナティナも作品としては，ハイセンスの大変魅力的なものなので，それで 楽しんでしまえばいいのでしょうが，それにしても，１９７０年代になってこ ういう作品が書かれていたというのは，自己の個性に忠実であり続けたという ことなのでしょうか。あるいは，音楽にしても美術にしてもファッションにし ても，今世紀初頭のパリのセンスは未だ色褪せていないと思ってますので，こ の作品も色褪せぬ魅力を有しているということなのでしょうか。 次に収録されている子守歌は１９１３年の作曲です。これはフォーレの子守 歌にやや近い雰囲気の作品で，ヴァイオリン奏でる１本の旋律にピアノの伴奏 という構成なので似たように感じるのかもしれませんが，なかなか心地よく聴 けるものでした。 もうデュオを組んで四半世紀になるという，フランコ＆ブルーノ・メッツェ ーナは，ダイナミックレーベルに録音を重ねてきているのですが，このタイユ フェールも，作品の魅力をくっきりと聴かせてくれていて，もやもやしたとこ ろのない明快な演奏を気持ちよく楽しむことができました。あえて難をいえば， ちょっとストレートすぎて，ニュアンスの幅を表現するところまでは至ってな いように感じられたのでしたが，これはこのデュオの現時点での限界でしょう か。 このＣＤの最後にはラヴェルのソナタが収録されています。私はこの曲の苦 みのあるテイストは好きなんですが，ここでの演奏は，感覚的な響きの心地よ さを身上としているせいなのか，抵抗なく楽しめるものだと思います。個人的 には，この作品って，あえて邪道な面を譜面に記したとでもいうべき一筋縄で はいかない曲のように感じているので，あっさりと弾かれてしまうと拍子抜け してしまうのも事実です。
2000.8.8
