ゲオルギウのヴェルディ・オペラアリア集

◎ヴェルディ
　　歌劇「シチリア島の夕べの祈り」〜ありがとう，愛する友よ（エレナ公女）
　　　　「ドン・カルロ」〜世のむなしさを知る神（エリザベッタ）
　　　　「リゴレット」〜慕わしい人の名は(ジルダ)
　　　　「アイーダ」〜ここにラダメスは来るはずだわ〜おお，私のふるさとよ(アイーダ)
　　　　「トロヴァトーレ」〜どうして立ち止まりなさいますの〜おだやかな夜(レオノーラ)
　　　　「仮面舞踏会」〜私の最後の願い（アメリア）
　　　　「シモン・ボッカネグラ」〜夕やみに星と海はほほえみ（マリア）
　　　　「運命の力」〜神よ平和を与えたまえ（レオノーラ）
　　　　「オテロ」〜柳の歌〜アヴェ・マリア（デズデモーナ）

　　　　　　アンジェラ・ゲオルギウ(ソプラノ)
　　　　　　ティツィアーナ・トラモンティ(メゾ・ソプラノ：トロヴァトーレのイネス），
　　　　　　ローラ・ポルヴェレッリ(メゾ・ソプラノ：オテロのエミーリア），
　　　　　　シャイー指揮，ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ管

　　　　　　英DECCA  466 952-2


　６月に来日予定のゲオルギウのヴェルディのアリア集を店頭で見つけ，飛び
ついてゲットしてきました。これらの曲は綺羅星のような大歌手たちの名唱に
事欠かないものばかりであり，ごまかしのきかない実力勝負の録音ということ
になるのではないでしょうか。

　それで聴いたみたら，持ち前の気品と強さの備わった美しい声に，広範な表
現力が兼ね備わって，実に聴き応えのある歌を歌っていて，特にリリコ・スピ
ントのキリリとした歌いぶりにはただただ聴き惚れてしまいました。

　例えば，エレナ公女，エリザベッダ，アメリア，運命の力のレオノーラなど
の，マリア・カラスが得意とした傾向のナンバーでの，まさに声の力で聴衆を
釘付けにしてしまうほどのストレートな声の力があって，しかもそれだけでは
なく，ジルダの清純な役どころや，アイーダの哀愁に満ちた歌や，そしてデズ
デモーナの聴いていて涙が出そうなほどの清澄な胸を打つ表現と，素晴らしい
表現の幅を聴かせてくれています。

　もちろん完全無欠というわけにはいかず，いまひとつ高域の伸びと安定感が
ほしいですし，技術的にもまだ向上の余地があると思ったのは事実なんですが，
今のままでもその声は素晴らしくエレガントで美しく，天にも昇るような耳の
快楽に浸ることができるものです。

　ゲオルギウはまだまだ伸び盛りにある歌手だとは思っていましたが，現段階
でここまで歌えるというのは正直なところ驚きでした。これだけの逸材であれ
ば順調にこれからもキャリアを重ねて大歌手への道を歩んでいってほしいと願
わずにはいられません。

　加えて，この録音で素晴らしいのはシャイー指揮のオケで，デリケートで的
確な場面描写には比類がなく，オペラアリア集の伴奏がこんなに素晴らしいな
んて前代未聞のことではないでしょうか。それだけ製作する側にも力が入って
いるということなんでしょうね。これだけ充実したオペラアリア集は滅多にな
いのではないでしょうか。

2000.5.3