山岡重治とダン・ラウリンのヘンデルのリコーダー・ソナタ
ALCD-1027 CD-955
◎ヘンデル リコーダー・ソナタ 変ロ長調 ＨＷＶ３７７ ト短調 ＨＷＶ３６０ ハ長調 ＨＷＶ３６５ イ短調 ＨＷＶ３６２（作品１の４） ヘ長調 ＨＷＶ３６９（作品１の１１） ニ短調 ＨＷＶ３６７ａ 山岡重治（リコーダー），平尾雅子（ヴィオラ・ダ・ガンバ）， 芝崎久美子（チェンバロ），能登伊津子（オルガン） コジマ録音 ALCD-1027 ◎同収録曲 ダン・ラウリン（リコーダー），鈴木秀美（チェロ）， 鈴木雅明（チェンバロ＆オルガン） 瑞典BIS CD-955 ＣＤショップの店頭で山岡重治ほかによるヘンデルのソナタのＣＤを見つけ ゲットしてきました。それと，昨年スペシャルプライスで入手したまま未聴だっ たＢＩＳのダン・ラウリン盤と併せて聴いてみました。両ＣＤの収録曲は順序 は異なりますが同一です。 山岡重治はリコーダー製作者＆奏者で，リコーダー製作者としては平尾重治 の名を使用しています。この録音ではレプリカの楽器を３種類使用しているそ うですが，平尾重治製作のものでしょうか（明記はしてませんが，多分そうで しょうね。）。 それで演奏ですが，大変に生真面目なもので，楽器の個性をよく心得ていて， その良さを最大限引き出しているような感があります。伴奏も折り目正しい， 品のよいものなのですが，僅かに堅苦しい感がしないでもありません。特にチェ ンバロにその印象が顕著です。それがオルガンになると力が抜けて軽い感じで 聴くことができます。また，ガンバはなかなかに感興溢れる弾きぶりで，表現 意欲もノリの良さも充分なのですが，なんだかリコーダーだけを主役にしてな るものかと張り切っているようであるのが微笑ましいところでもあります。 個々の奏者の印象を書くと以上のようなことになるのですが，演奏そのもの の印象はどうかというと，品格の備わった生真面目な演奏であることはそれ自 体大変好ましいことなのでしょうが，どうも小さくまとまりがちで，ヘンデル らしい，緻密ではないにしても風通しのよいスケール感を味わえないのは正直 いって不満に思ってしまいました。これは個々の奏者の持ち味であると同時に， それぞれの奏者が自分の演奏にばかり気を取られていて，アンサンブルとして 表現していく方向性がばらばらというか，誰もアンサンブルを束ねていない演 奏であるからではないかという気がします。 一方，ダン・ラウリン盤の方ですが，こちらは４本のリコーダーを使い分け ています。こちらを一聴して驚くのは通奏低音の雄弁さで，百戦錬磨の２人が 自由自在，天馬空を行くかのような聴き手をゾクゾクさせるような演奏を繰り 広げています。 ラウリンのリコーダーも木質で軽やかさを感じるもので，山岡重治の演奏を 聴いていたときに感じた窮屈感が全くなく，のびのびと開放的な感じがするの で聴いていてほっとする思いです。 ただ，こちらの演奏は山岡重治の演奏を聴いていたときとは反対に，演奏姿 勢としてあまりにお気楽なのではないかという気がしてならないのです。ラウ リンにしても多彩なテクニックを駆使して吹いているのはいいとしても，それ が作品の良さを伝えることに寄与しているようには感じられず，曲の良さが分っ ていないのか，それとも作品に対する謙虚さがないのか，その辺りのことは分 りませんが，いずれにしても才気走った感じのする，やんちゃ坊主的演奏に止 まっているように思えてなりません。 伴奏の２人についても同様に感じるところがあって，演奏の雄弁さが作品の 雄弁さを超えているのではないかと思えるほどの聴き映えのするものなのです が，ちょっと面白がりすぎかな，もう少し謙虚に演奏に望んでほしいな，とい う感じがすることは否めません。 録音ですが，山岡盤ではほどよい距離感の録音ですが，音が密室的というか 内向的で，石質の肌触りを思わせるところがあります。ラウリン盤は反対に， 距離的には近い感じで，拡大鏡的に演奏のニュアンスが分るという感じです。 音色は木質で軽やかさと反応の良さがあって大変好ましいと思います。ただ， この録音で問題なのは，伴奏のレベルが高すぎることで，加えて演奏も雄弁な ので，リコーダーの存在が薄くなりがちです。 そんなわけで，２枚のＣＤを聴いてみた印象は好対照というか正反対でした。 私としては残念ながらどちらにも不満な部分が残ってしまいまたし，どちらか を薦めるというのも大変困難ですが，これだけ特色のはっきりしている演奏で あれば，自らの好みに照らして選んでいただけば見当外れにはならないと思い ます。
2000.4.30
