カラヤン＆ＢＰＯのブルックナー５番ライヴ

◎ブルックナー　交響曲第５番 <1980.11.23>

　　　カラヤン指揮，ベルリンフィル

　　　米SARDANA  SACD-226〜7


　ベルリンでのライヴ録音です。このＣＤは２枚組ですが演奏時間はトータル
で７８分３２秒しかなく，割高感を感じてしまうのも事実です。

　肝心の演奏ですが，このコンビのグラモフォンへのスタジオ録音からは想像
もできないほどの，自然で感興に満ちた流れの良さが印象的で，指揮者，オケ
共々演奏に対してのめり込んでいて，聴いていて沸き立つような思いに駆られ
る実に素晴らしい演奏です。

　オケはベルリンフィルとはいえ，いわゆるドイツの伝統的なオケの演奏のイ
メージとは異なる美しくしなやかなもので，これは７０年代から８０年代にか
けてのカラヤンの演奏が聴かせていた持ち味でもあるわけですが，それがここ
ではさらなる充実感をもって響かせているような感があります。

　個々の奏者の力量でいえば，なんてったってベルリンフィルですから上手く
て当たり前で，技術的な不安は全くなく余裕を持って演奏できているのですが，
面白いことに，一糸乱れぬ完璧なアンサンブルという印象は後退気味で，それ
よりも１人１人がノッて演奏しているところから生じる，生き生きとした感じ
が全体を支配しているのがなんとも素晴らしいところです。

　ブルックナーの交響曲の中でもとりわけ５番はかっちりした枠組みの構造的
な作品という印象があり，ゆるぎない構築性や壮麗な響きといったアプローチ
の名演には事欠かないと思いますが，この演奏のようなエレガントに素晴らし
い演奏って希有なことではないでしょうか。この演奏で聴く５番は，多少なが
らも７番の世界に接近している趣があります。

　ここまでの感想だと，なんか軟派で腰高な演奏に思えてしまうかもしれませ
んが，ベルリンフィルらしいきっちりした演奏ですし，特にバスの明解さと存
在感は改めてこのオケの底力を感じさせてくれますし，こういった基本的な要
素は問題なくギャランティしていて，要するにこの演奏では，それに加えての
プラスアルファが素晴らしいということなのです。

　というわけで，この演奏はカラヤンの魅力が最良の形で演奏に結実したもの
といえるのではないでしょうか。最近のカラヤンのライヴ録音の中でも特に優
れたものだと思います。

2000.4.29