ヤノフスキ&フランス放送フィルの4枚組ボックス


◎R・シュトラウス アルプス交響曲<1997.5.22>
 シベリウス  交響曲第7番<1999.1.8>
 フォーレ   「ペレアスとメリザンド」組曲<1996.4.17>
 デュティユー 音色・空間・運動<1996.3.9>
 ドビュッシー 交響詩「海」<1996.4.17>
 シューマン  交響曲第2番<1990.10.16>
 ブラームス  交響曲第2番<1999.1.8>
 ブルックナー 交響曲第6番<1999.4.23>
 ワーグナー  楽劇「神々の黄昏」〜ジークフリートの葬送行進曲<1992.3.14>

   マレク・ヤノフスキ指揮,フランス放送フィル

   仏LE CHANT DU MONDE  CMX 378081〜4

 ヤノフスキは1989年からフランス放送フィルの音楽監督を務めていたの
ですが,1999-2000年のシーズンをもって任期満了を迎えるそうで,そのトリ
ビュートアルバムとして製作されたもののようです。

 それで,収録順に聴き始めたのですが,最初のアルプス交響曲の充実した演
奏が聴こえたときから「いったい何が起こったんだ!」と一瞬たじろいでしま
うほどの名演でした。

 響きの密度が詰まっているのに加え,フランスのオケらしい明るさもあって,
低域の充実感は希薄なものの,アルプスの1日を高揚感のある見事な演奏で描
ききっていました。

 続くシベリウスも非常に見通しの良い明晰な響きで,デリケートで陰影に富
んだ,素晴らしい心象風景を描き出しています。管楽器陣は,アンサンブルは
いま1つでありながら,ソロのときは素晴らしく雄弁なところを聴かせていま
す。

 フォーレは,好きな曲ですしフランスのオケということで期待していたので
すが,控えめさとか秘めたる部分とかいった者とは無縁の,すべて丸出しみた
いな演奏で,演奏そのものは克明で響きの良さも聴かせているのですが,これ
は指揮者の限界だったかな?という気がしないでもありませんでした。

 デュティユーでは,この曲独自の響きの美しさの活かされた演奏で,変化に
富んだ曲想の移り変わりを楽しめる演奏です。しかしながら,明晰さとか見通
しの良さのようなものはいま一歩なのは否めないのは事実なんですが,こうい
う作品を果敢に演奏していることを積極的に評価すべきでしょうね。

 ドビュッシーの海は,作品が手の内に入ったような,ぴったりとはまった演
奏を聴かせてくれます。茫洋とした海ではなく,波しぶきの1つ1つが見えて
くるような明晰な演奏であり,特に中間の「波の戯れ」でのソロの受け渡しや
音の重なりでもって正に波の満ち引きのような演奏を聴かせているところなど
は印象に残りました。

 シューマンの交響曲2番は,分裂症的傾向とは無縁の,磨き抜かれた響きで
前向きの演奏をしているのですが,そこには生命感とか喜びが感じられ,聴い
ていていると喜びで胸一杯になってくる,さわやかな聴後感を残す演奏でした。

 ブラームスの交響曲第2番も,明るくさわやかに流れていて,ブラームスが
イタリアにあこがれて書いたという,あこがれそのもののような魅力的な演奏
です。聴いていて感覚的にとても心地よく,ラテン系ブラームスの名演と言っ
ていいと思いますが,あまりにもノリノリな演奏ゆえ,苦虫を噛みつぶしてブ
ラームスを聴くような方には,脳天気な演奏に聴こえるかも。

 ブルックナーの交響曲6番は,これまた重量感のあるシリアスなブルックナ
ーとは異なる,重力のくびきから解き放たれた七色の響きをもつ明るいブルッ
クナーで,厚みに乏しいと感じることは多々あるとはいえ,輝かしさ,力強さ
には欠けておらず,これを聴いていると,いかにもメシアンを輩出した国のオ
ケのブルックナーだなとの思いを抱いてしまいました。3楽章のスケルツォで
の軽やかなステップや,4楽章のフィナーレ近くでの軽快な金管などは,この
演奏を聴くまでは想像もできなかった表現です。

 最後のジークフリートの葬送行進曲は,作品が作品であるためか,正攻法全
力投球的演奏で,一般的なこの作品のイメージ通りの演奏ではあるのですが,
明るく華やかなこのオケ独自の響きはここでも健在で,深刻にならずに聴ける
ワーグナー演奏になっています。

 というわけで,駆け足で4枚のCDを聴きましたが,どの演奏も実に面白く,
あっという間に聴き終えてしまいました。とくに凄かったのはアルプス交響曲
で圧倒的説得力と存在感をもった演奏でした。他の収録曲もおしなべてよく,
決してアンサンブルに優れているとはいいがたいのになぜか雄弁なシベリウス
には大変感動しましたし,シューマンの交響曲は聴いた後とても満足感があり
ましたし,ドビュッシーの海はさすがの表現でしたし,ブラ2は理屈抜きに楽
しめる演奏でしたし,ブル6は滅多に聴けないほどのユニークなブルックナー
でしたし・・・と,とにかく聴きどころに溢れたセットでした。これで
4990円は安すぎですね。

2000.1.24