ショルティ＆ＮＤＲの英雄交響曲のライヴ

◎ベートーヴェン　交響曲第３番「英雄」<1996.6.15>
　　　ショルティ指揮，北ドイツ放送響
　　　独　北ドイツ放送響　561 969


　この演奏はシュレスヴィヒ・ホルスタイン音楽祭のライヴ録音です。ショルティ
の亡くなる前年の演奏ということになります。

　ショルティの英雄というと，シカゴ響との２度の全集録音前にもウィーンフィル
と録音していて，ショルティらしいきびきびとした演奏でした。ベートーヴェンの
交響曲の中でも「英雄」はショルティ向きの曲なのかなとも思っていたのですが，
今回のＣＤを聴いた印象は意外なものでした。

　最初のアタックから感じるのは，余計な力が入っていない，クリヤーな演奏をし
ていることで，それだけでもかつてのショルティの強引とも言えるオケのドライヴ
が影を潜めていることに気付きます。

　ここでの演奏は，オケの自発性が顕著で，指揮者と共に進むべき方向性を理解し
合い共有し合いながら，感興溢れる演奏を繰り広げているといった趣の演奏です。

　ただ，ベートーヴェンの「英雄」というと，例えばフルトヴェングラーのような
作品に対する意志を表現するかのような名演があるのに対し，ここでのショルティ
指揮北ドイツ放送響の演奏は，そういった意志に関するファクターは表に現れず，
あくまで純音楽的にスコアに書かれた表現を磨き上げていくかのような演奏です。

　私自身，このＣＤを聴いて感じたのは，緊密なアンサンブルでの澄み切った演奏
は全く見事なもので，オケの能力を最大限発揮した演奏であるにもかかわらず，こ
の演奏を通じての主張，メッセージというか，表現としてのプラスアルファがあれ
ばもっとよかったな，というのが正直な印象です。

　ただ，この演奏はオケにとっても大変に印象深い演奏であったようで，あえて英
デッカとショルティ夫人の承認を得てこの自主制作ＣＤをリリースすることとなっ
たとのことです。聞くところによると，このＣＤの日本への割り当ては２００枚だ
そうで，このＣＤを聴いてみたいと思われている方は，とにかく見つけたら即ゲッ
トするしかないでしょうね。

2000.1.17