チョンの驚異的な小品集
少し前に発売された，チョンのヴァイオリン小品集を聴きました。 ◎ドヴォルザーク（ヴィルヘルミ編） ユモレスク作品１０１の７ ４つのロマンティックな小品 作品７５ シマノフスキ 夜想曲とタランテラ 作品２８ Ｊ・Ｓ・バッハ（ローター・ヴィントシュペルガー編） 管弦楽組曲第３番〜エアー（Ｇ線上のアリア） ストラヴィンスキー デュオ・コンチャルタンテ〜第５楽章「ディディラム（バッカス賛歌）」 イベール 物語〜第２曲「小さな白いロバ」 クライスラー 美しきロスマリン ウィーン奇想曲 中国の太鼓 シューベルト（ヴィルヘルミ＆ハイフェッツ編） アヴェ・マリア ラフマニノフ ２つのサロン風小品 作品６ マスネ（マルシック編） 歌劇「タイス」〜瞑想曲 ドビュッシー（ハイフェッツ編） 美しき夕べ サラサーテ ツィゴイネルワイゼン チョン・キョンファ（ヴァイオリン）， イタマル・ゴラン（ピアノ） 英EMI 5 56827 2 このＣＤはすでにあちこちで評判になっているようですが，本当にこれは驚 異的な演奏です。エモーショナルな演奏を聴かせてきたチョンが，ここでは非 常に落ち着いたを演奏をしており，清澄さも感じられ，聴いていてとても落ち 着きます。 とりわけ印象深いのはタイスの瞑想曲で，怜悧で緻密な，波紋ひとつない水 面を思わせるような静謐さで始まり，その静謐な雰囲気を維持したまま徐々に 感情的に高まっていき，さらなる充実感を加えていきます。こんな見事なタイ スは空前絶後ではないでしょうか。 あとは，名演がありそうでなかなか無いクライスラーの小品も，本家本元の 自作自演に負けない素晴らしいもので，「クライスラーをクライスラーのよう に弾く限り誰もクライスラーを越えられない」と常々思っているのですが，こ こでのチョンはクライスラーの演奏とは全く異なった緻密な世界を創り出して おり，これまた嬉しい驚きでした。 それから，激しい曲調の作品の時には，正に青白い炎が燃えるようなクール な印象があります。チョンがこういう演奏をするようになるとは，全く想像も できませんでしたが，全く大変な境地に至ったものだと驚くほかありません。
1999.11.7